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~第十七話 朝井うさ子が悠馬の前に現れた~ うさぎの帽子の不思議な女性

Author: 倉橋
last update Last Updated: 2025-09-18 20:42:23

 スーパー・ラバットがいなくなってからというものの、悠馬はずっと沈んだままだった。

 一週間後、母の芽衣は長野に戻ることとなった。

 東京を離れる前夜。芽衣は桜花高校の屋上で、荒川先生と一緒に天体観測を行った。

「月には色々秘密があると思う」

 深夜の屋上の中心には乾電池式のライトが置かれている。その一角、十メートル四方だけが昼間のように明るい。そのそばで荒川先生は、屈折式天体望遠鏡の調整をしている。芽衣はその様子を見つめながら話しかけた。

「月には文明があるという仮説。昔からささやかれてきたけれど、私にはただの根拠のない伝説とはどうしても思えない。実はね、月観測を最高レベルまで引き上げる『ムーン・ライト』の設計図が完成したの。是非とも開発まで持っていきたいところ。天文台の東京支所の目玉にしたいのだけれど、そのためにも国からの補助金が絶対に必要」

 荒川先生は望遠鏡から離れ、芽衣の話に耳を傾ける。

「悠馬のことはすごく心配だけど、仕事は毎日ある。東海科学館長野天文台の館長が退任し理事長に就任することが内定した。私が館長に就任することも内定。天文台に帰らない訳にはいかないのよ。分かるでしょう」

「何か大きな成果を挙げないといけませんね。海外では、大手企業が協賛金を出している天文台がたくさんあります」

「そう、成果さえあればね。今はあなたと悠馬の二人三脚に期待している。悠馬のこと、頼んだから」

 荒川先生の表情が緊張した。天文観測より難しい任務を与えられた気分である。

「年の差は、私、全く何も気にしてないから。早く決めちゃったら?」

 荒川先生の表情が一層、緊張した。

 そのときだった。

「朝井先生!」

 聞き覚えのある声がした。ふたりが声の方向を振り返ると、懐中電灯を手にした飛鳥がいた。その後ろには高蔵彩良先生の夫の田辺がいる。防衛大学研究所の研究員である。

「田辺先生」

 あわててふたりが挨拶する。

「突然、すみません。現在まだ機密事項ではありません。私の判断で朝井先生にお話しします」

 田辺も緊張した表情。だが荒川先生の緊張とは、どうやら種類が違うようだ。

「月から地球、しかも日本に向かって何かが飛来しています」

 芽衣も荒川先生も顔を見合わせた。

「それは間違いないのですか?」

「いえ、調べてみましたが、日本とアメリカのレーダ
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